新卒採用と転職の矛盾

毎年4月になると通勤電車に真新しいスーツを着た、如何にも新入社員と見受けられる若い人たちを多く見かけるようになります。希望を胸に新しい環境に挑戦する雰囲気を感じられる、新しい年度を迎えるにふさわしい風景と言えるでしょう。

しかし、一方で新卒採用者の転職が問題視されるようになってきました。

企業としては定年まで働くことはさすがに期待していないとは言え、新人教育の成果の見返りがないうちに辞められてしまうと、採用や給与で投資した結果が出ないまま持ち出しになってしまいます。

最近は仕事がゆるいホワイト企業はスキルがつかないから敬遠されて、新人の間多少厳しくてもスキルを付けることができる企業が人気だそうです。

そして転職に見合うスキルが付いたところで、更に良い境遇を目指して転職するということが起こっています。踏み台にされた企業にとってたまったものではありません。

合法であれば許されるとは言え就職や転職の慣例というものがありますから、これまでの制度では対応できない状況になっているということでしょう。

すなわち、教育をしないと結果を出せない新入社員に最初から給与を出すことに矛盾がありますし、そもそも高い授業料を取って社会に役に立たない学生を教育していると思いこんでいる、大学を始めとする教育機関にも問題があります。

今後これまで以上に転職によって人材の流動性を確保する必要があるのなら、給与を抑えた試用期間を2~3年に伸ばすとか、インターンをもっと積極的に活用して、学生時に1年とか2年間、業務教育を含めて適性をお互いに確認し合う時間を設けるなどの改革が必要でしょう。

日本が長い間踏襲した終身雇用制はいろいろなバランスを保って成り立った制度でしたから、転職は自由だからといってそのまま受け入れていれば、どこかで破綻を来すのは目に見えています。

昔の大工や寿司屋の見習いが、まさにスキルを身につけて転職を繰り返す社会だったわけで、今の日本の企業はまだまだ終身雇用制度から抜けきっていないのでしょう。

産学が連携して将来を見据えたスキルを教育し、自信を持って就職できる社会を目指してもらいたいものです。