日本の社会とデジタル化

まあなんと言ったって日本は「わび・さび」の世界ですから、デジタル化とは相性が悪いです。

これは仕方がありません。そういう文化ですから。

マイナンバーカードの失敗は、その日本に何の前準備もせずにデジタル化しようとしたところにあります。

考えてみれば、カシオがデジタル時計で一世を風靡した頃、つまり山口百恵さんが「デジタルゥはカシオ!」というテレビCMを大量に流していた70年代から80年代にかけて、日本人のほとんどは「デジタルって何?」という感じでしたから、それからかれこれ日本人がデジタルを理解するのに40年ぐらいかかったことになります。

いや、日本人がデジタル時計に慣れただけで、デジタルを理解したとは言えないかもしれません。(おそらく言えないでしょう。)

そもそもデジタルの対向にあるのがアナログですが、アナログを理解しているかというとそうでもありません。デジタルと比較してなんとなくアナログだなあという程度の区別はできても、アナログそのものを明確に説明できる人は、理工系専門の人でもそれほどいないでしょう。

ですから、まず日本が世界各国からデジタル化が遅れているというのが、本当にそうなのかを検証するところから始めるべきだったように思います。

デジタルを理解しない政府要人が、訪問する各国で吹聴されるデジタル化の状況を見て、「こりゃ日本は遅れておるわい!」と感じたとしても、本当にその国々で行われているのは真のデジタル化か、単に見せ方の違いだけなのかを討論する必要があったのではないでしょうか?

その上で、政府や地方自治体の業務を効率化する目標を立て、それに向けて現状どこに問題があって、デジタル化をすることによってどの程度作業が効率的になるかを分析しなければならないでしょう。

それなりの規模の専門家を集めて、1~2年検討しなければまともなものはできないと思います。

今だに80年代のQC活動のようなPDCAが取り上げられることがありますが、まず計画(Plan)がなければ始まりません。

一体どういう筋書きで、どういう成果を上げればマイナカードは成功なのか?

ひょっとして政府は、成功か失敗か判断する基準さえ持たないまま突き進んでいませんか?

医療記録の閲覧とマイナカード

マイナカードに記憶された過去の医療記録を、どこまで医療関係者に見られるか?

皆さん、マイナカードにどんな情報が記録されていて、どこまで他人に見られるか理解しているでしょうか?

残念ながら私は知りません。公開されているマイナカードの規格から、どのような情報がどれだけの期間残っていて、誰がどのようにして閲覧できるのか、まったく理解しておりません。

政府は、マイナカードのスペックと運用方法を、国民に分かりやすい方法で公開していますか?

改正個人情報保護法の施行によって、これまで以上に個人情報の利用と管理に制限がかかっています。

個人情報保護法は、国際的な流れに日本が遅れを取らないように海外の法規を真似しているように思われ、国内の議論だけを見ていても個人情報の守らなければならない範囲を理解することはできません。

特に生命科学分野における個人情報には、利用に制限がかかっていますから、容易に読み出すことはできないようにするべきです。

ところが、朝日新聞デジタルのニュースによりますと、本人の同意があればすべての情報をマイナカードから読み出すことが、現行の仕組みではできてしまうと指摘されています。

そもそも医療情報は、レントゲン写真にしてもCTスキャンのデータにしても、他の医療機関で作成したものあまり利用されることはなく、当該の医療機関で再度やり直すことが多いように思います。

検査装置の稼働率を高めるためなのか、2重に検査費用がかかるため検査データの持ち出しを推奨しているのは健康保険組合だけで、実際は医療機関は収入が増える方法を選びます。

ですから、マイナカードにいくら貴重な過去の医療情報が蓄えられていたとしても、有効に利用されることはほとんどないでしょう。

しかも、現在の治療にまったく関係がない情報が大量にマイナカードに蓄えられているとしたら、個人情報の保護の観点からも重大な欠陥を持った制度だと言えるでしょう。

マイナカードは、日本のデジタル化が世界に追いついていないという理由だけで、まったく素人の政治家が性急に事を進めて、まったく役に立たないシステムをでっちあげようとしています。

日本には、すでにまともなシステムを構築する事ができる人材が、消え失せてしまったのでしょうか?

マイナカードにどのような情報を管理されているかも知らずに、ポイントにつられてせっせとマイナカードを取得する国民のバカさ加減も尋常ではありませんが、政府の対応もそれに合わせたかのようにお粗末です。

マイナカードの不手際でごたごたし続ける状況を見ていると、数年後にデジタル化でさらに世界から引き離された日本の姿を想像するのは難くないでしょう。